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広島高等裁判所 昭和54年(く)28号 決定

少年 N・K子(昭三九・一・六生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、法定代理人N・S子作成の抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。

論旨は、要するに、少年は現在これまでの生活態度を深く反省しており、今後は必ず良い子になる旨を誓つているし、抗告申立人においても少年の保護育成に努める所存であるから、少年に対してはその収容期間を六か月に短縮し、短期処遇の寛大な処分をされたい、というものである。

そこで、少年に対する保護事件記録(広島家庭裁判所昭和五四年少第九〇一号、第一二〇五号)及び調査記録を精査して検討するに、本件保護事件の概要は、保護者(母親、抗告申立人のN・S子)の正当な監督に服さず、家出を繰り返している少年が、(一)昭和五四年七月一八日、又もや友人のA子と家出したうえ知人のアパート等に泊つたり、公園に野宿したりしながら、素行不良者と一緒にシンナー乱用、喫煙、飲酒、不純異性交遊等自己の徳性を害する行為を続け、(二)同月三一日、右(一)の行為につき身柄付虞犯送致されて一旦鑑別所に収容されたのち、同年八月二四日広島家庭裁判所から住宅試験観察の決定を受けて出所したにも拘らず、相変らず家出を重ね、シンナー吸引や不純異性交遊等自己の徳性を害する行為を累行したうえ、同年九月一七日ころには見知らぬ三五、六歳位の男から覚せい剤と思われる物の水溶液を身体に注射されるなどしていて、少年をこのまま放置すれば、その性格、環境に照らし将来売春、窃盗、覚せい剤取締法違反等の非行を犯すおそれがある。というものであつて、右非行事実については少年自身も原審判廷において認めているところである。このような本件事案の性質や態様のほか、原決定が適切に説示している如く、少年の生育歴、家庭環境、性格、資産等には多くの問題点が存在することが認められ、とりわけ、少年は基本的な躾に欠け、怠惰で投げやり的、場当り的なところが目立ち、自制力に乏しく、自己中心的で感情に支配され易く、性格的にも情緒不安定であつて、かなり未熟な人格であること、他面、唯一の保護者というべき母親は少年の度重なる非行のためその指導に自信を失つている状態であつて、その監護能力には限界があると認めざるをえないこと等を考慮すると、少年に対しては、この際中等少年院に相当長期間収容したうえ、生活指導や職業訓練等を通じて健全な規範意識と生活習慣を体得させるとともに情緒の安定と社会適応能力の涵養をはかることが必要であると認められるのであつて、少年自身に反省的態度がきざしていること、抗告申立人においても今後は少年に対して愛情をもつて接し、その保護育成に努める旨誓つていること等所論指摘の点を斟酌してみても、少年に対して収容期間を六か月以内とするいわゆる短期処遇が相当であるとは考えられない。したがつて、これと同趣旨の見解に基づき少年を中等少年院に送致したうえ、これに少年審判規則三八条二項に則る短期処遇相当の勧告をしなかつた原決定は相当であつて誤りないものというべく、さらに記録を精査しても原決定を取り消すべき事由は何ら見出すことができないから、本件抗告は理由がない。

よつて、少年法三三条一項後段により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 竹村壽 裁判官 谷口貞 堀内信明)

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